2024/03/14

(仮)ズ / 『(仮)ズ』 - Released 2013, Streamed 2020~2023 - 全曲について

 (仮)ズ - 『(仮)ズ』 - Released 2013, Streamed 2020~2023 - 全曲について

1 - 殺してよ
2 - できないのうた
3 - うさぎ、ガラスの中
4 - VHS GIRLFRIEND
5 - コンクリート
6 - プラットフォーム
7 - Fault
8 - Youth Youth Youth
9 - Owari

(仮)ズ - 『(仮)ズ』(S/T) - Released 2013, Streamed 2020 ~ May, 12, 2023

1 - 殺してよ

 冒頭4秒 - サウンドチェック。リアPUから出力されるディストーション・ギター、「早く始めろ」と急かさんばかりのスネアが4カウント。リヴァーブを欠いた、しかし存分にダークかつヘビィなシューゲイズサウンドでセルフタイトルは遂に始まる。
 遠く響いてくる震えた声から歌詞を正確に聴き取るのは困難だが、そのようなサウンドプロダクションがアルバム全編通して一貫している。時間の制約があるとはいえ録り直しが可能な筈のスタジオアルバムであることを鑑みれば、意識的に聴き取りにくく発音しているのだろう(「綺麗です/僕なんて」または「嫌いです / 僕なんて」と聴こえる)。

 サウンドメイク、タイトル、比較的聞き取りやすい冒頭、明確に聴こえるコーラスセクション直前「頭がおかしいんだ」というリリック。それらから受ける自己嫌悪・内省的印象とは裏腹に、語りかけるような口調があくまで他者或いは聴き手の存在を忘れていない。 

 何より「死ぬ/死にたい」ではなく、自嘲と共に綺麗な貴方に救いを求める「殺してよ」だ。

▶︎Bandcamp - https://kakkokariz.bandcamp.com/album/decay


2 - できないのうた

 抑うつとした救いを乞い願う1曲目と打って変わって、そのギターが生み残していった泥々のカオスの後にバンドはここで激しい躁状態に突入する。音源ではBPM170~180、ライブ版は190~200を行き来するキラーチューン。
 これは音源とライブ版で受ける印象が大分異なるので是非聴き比べて欲しい。

▶︎SoundCloud - https://soundcloud.com/lcding/q9hsc4tcckwm

 絶叫される「君みたいに/なれないや」「できない/できない/できないな/笑って誤魔化しているだけ」の歌詞は、ここでもやはり自暴自棄だけではなく一方で冷静な自嘲をたたえている。

 「美しい/立派な貴方」と「醜くて/駄目な自分」という視点は1曲目と共通するが、ここでは「殺してよ」どころか目の前の「君」を八つ当たりに殺さんばかりの勢いだ。


3 - うさぎ、ガラスの中

 (仮)ズ の中では比較的詞が聴き取りやすい。
 苦しく暴力的ですらあった冒頭2曲と「生まれた時から飼われた、だから野生で生きる術を持たないウサギ」への憐憫が歌われる3曲目。

 「ウサギは/死ぬまで/小屋で生きて」「逃げたら/飢えるだけなんだ」
 躁・鬱に振り回される様を傍観した後、一時だけ我に帰ることを許された狂人がみせる優しさに触れた瞬間のようで、感情が苦しさや怒りだけではない事を思い出させてくれる。
 ……私たちのいる場所は檻の外だと果たして言い切れるのだろうか。

 ラスト、金属メッシュのケージが開く様な音がする。うさぎは帰ってきたのか、それとも今度こそ世界を隔てる透明な壁を破ったのか。

 冒頭からここまで、私がこのアルバムで2番目に好きな部分。

4 - VHS GIRLFRIEND

 I ( ↔︎ II ) ⇒ b III ⇒ V ⇒ IV のベースから始まり、かつ一貫してこの進行で楽曲は完結する。

 “Add 9thで浮遊せずマイナー調で統一した場合の初期ART-SCHOOL的アレンジ”と表現しても差し支えないだろう。強いて挙げればイントロは”UNDER MY SKIN”、コーラス部は”スカーレット”だろうか。

 ここでもやはりリヴァーブの欠けた、しかし重苦しい(仮)ズ的シューゲイズが表現される。
アウトロの残響やFBノイズを聴く限り実はTimeの長いリヴァーブないしディレイが使用されているにも関わらず、ドリーミーだったりウェットな印象は受けない。簡単に思いつく理由としてはDecay(原音からエフェクトが掛かり始めるまでの長さ)のセッティングを長めに取っているか、ディレイペダルを敢えてODペダルの前段に置いているのだろうか。

▶︎Bandcamp - https://kakkokariz.bandcamp.com/track/vhs-girlfriend-version


5 - コンクリート

 幕間或いはインタールード。冬・早朝のコンクリートに触れた時を想起させる冷たいアルペジオ。そんな物に触れるのは歩いていて転んでしまった時、挫かれて足の止まった時くらいだろう。

6 - プラットフォーム

 フェードアウト━━下降していくアルペジオがそのまま上昇するかの様にここへ行き着く。(よくよく聴けば駅のアナウンス音のような組み合わせでアルペジオは構成されている)

 待ち人を急かすようなつんのめったビートを伴ってアナウンスは鳴り続けている。ドアが閉まるまで4, 3, 2, 1。ギターが鳴らす文字通りのサイレンを伴ってメトロは出発した。


7 - Fault

 ……警笛は止んだ。列車は必ず次の駅へ。ではギターは?やはり再び鳴る。ギターロックがギターから始まるのは全く不自然なことじゃない。

 サウンドプロダクションはこの楽曲のみアルバム内で大分異なってハイファイで力強い音……というにはやや異質な、録音の時が・場所が異なる質感の違い。

 基本的にデッドなサウンドに統一されたこのアルバムの中でも全パートがフィジカルを以てのダイナミクスが生きた演奏を聴かせる。
 1曲のみサウンドエンジニアを招いて録音したというのが恐らくこの楽曲と見受けるが、Bandcampの楽曲ページ及び公式HPではその名を確認する事は出来ない。

 (仮)ズは2013年5月13日に解散した。よってそのクレジットが、記名性は、恐らく永遠に失われることだろう。

▶︎Bandcamp - https://kakkokariz.bandcamp.com/track/fault

▶︎HP - https://www3.hp-ez.com/hp/kakkokariz


8 - Youth Youth Youth

 実質的なラストを飾る楽曲。
 切迫して踏みとどまるビート、冷たいアルペジオ。まるで”ロックバンドみたいな音楽”、”ロックバンドなどというもの”を初めて聴いた時の感覚を思い出すかのような━━音数が執拗に詰め込まれているが緩急のついた必死の、ギリギリでカオスに突入しない理性的な━━ギターソロ。

 「君の銃を撃て」……ギターは銃、刃、時に言葉を持たぬブランケットの慈しみかのように鳴る。このギターは額面通り目も眩む光を放つ研ぎ澄まされた刃、体温の感じられない"設計されし"殺戮者・鉄塊としての銃だ。
 弾丸は打ち続けられる。弾が尽きるまで。35分間のアルバムが、楽曲自身のテンションが最高潮に達するのは僅か約50秒間/32小節。

 弾は尽きた。残った硝煙のように不可避的な演奏が続行される。ブレイクダウン、冷却。1コーラスのそっけないリフレイン。

 終わり続けた演奏がついに必然に終わった。


9 - Owari

 この楽曲はリリース・配信されていたのと殆ど同様のものをSoundCloudで聴くことが出来る。そのタイトルは「全部、大切な思い出だから」で、最後の最後にCV : 花澤香菜の声がタイトルを読み上げて終幕する。

 出典は化物語 第十話「なでこスネイク 其ノ貮」か。本編15:09以降、千石撫子が発する一連の台詞から。

▶︎SoundCloud - https://soundcloud.com/kakkokariz/zenbutaisetsunaomoidedakara

 
 
期間限定の再結成を除いて(仮)ズの実質的な活動は1年未満、2017年のごく短期間のバンド再結成を含めても2年とない。(仮)ズは解散した。

 最後に。「コンクリート」から「プラットフォーム」の始まりと終わりまでがこのアルバムの1番好きな部分だ。


| This article was written and published on April 24, 2023. (on Tumblr)

2024/01/09

Billy Mahonie - 『What Becomes Before』(2001)

Billy Mahonie - 『What Becomes Before』(2001)

(2001) Billy Mahonie - 『What Becomes Before』
1. Fishing With A Man For A Shark
2. Nacho Steals From Work
3. Dusseldorf
4. Hey Mr. Jukes
5. Keeper's Drive
6. Simple Solutions Seldom Are
7. False Calm
8. Lothe
9. The Day Without End
10. I, Heston
11. Paysted Way
12. A Warning To The Curious
13. Terylene
14. Bres Lore

Released October 1, 2001 - Southern Records (London, UK)

 英ロンドンのポストハードコア/ポストロック/インストゥルメンタルロックバンド・Billy Mahonieの2ndフルアルバム。2001年リリース、Therapy?やBig Blackを擁したSouthern Recordsから。また、このバンドは過去に『Are Matthew, Mark, Luke And John』のTHE JESUS YEARSと共同でスプリットをリリースしている。 

  サウンド及び楽曲にはアメリカ的な乾いたインディーロック,パンクロックとDischord的なハードコアパンクに加えサーフロックのエッセンスが混在しており、とりわけ特徴的なのは楽曲全体を通して展開が"劇的ではないが目まぐるしく変わり続ける"ことで、メインリフ以外のフレーズやビート等を8小節〜16節以上は決して繰り返さないことが徹底されている。

 また、 ポストハードコア/エモやポストロックの系譜のバンドにおいて、とりわけアルペジオ等に顕著である複雑だが曖昧なアンビバレントを両立する特徴的な音感の音階、及びフレーズはこのバンドでは用いられておらず、しかし同じく情緒揺さぶるブルースともやはり異なる独特の情感がBilly Mahonieにはある。

 デジタル・ポストプロダクションでロックミュージックの可能性を押し広げその果てを目指したシカゴ音響派、エモーショナルの表現を現在もなお更新し続けるマイクキンセラ及びそのファミリー、音楽に纏わりつく他の凡ゆる全てと決別したDischord Records。あくまでハードコアパンクを下地にそのいずれとも異なるイギリスのポスト・ロックのスタイルがここに強固に示されている。

 なお現在も活動中のバンドで、特にライブ活動は精力的に行われている。
(最後に余談を簡潔に記すが、2005年リリースのシングル集『Found』はインストのPolvoのような作品なのでこれも聴くと良い)

2023/01/01

Self-Titled.

Bandcamp

・バンド: カルト3 - https://cultiii.blogspot.com/